妖夜祭フィクションレポート(前編)

以下の文章はハロウヰン前に自分が呟いた

…を自己解決するために書いたレポートです。

7割くらいのフィクションと3割くらいの事実を含んでます。

「ハロウィンの夜、浅草に妖怪たちが集まってどんちゃん騒ぎをするらしい」
そんな風の噂を聞いたのは夏の暑さも収まり、涼しい空気となりはじめた10月初旬の学校の昼休みの時間であった。
どうやらツイッターでハロウィンの日に妖怪たちの集合を呼びかけるアカウントがあったそうだ。
「どうせコスプレハロウィンで騒ぎたい人たちが、観光客の多い浅草にも集まりたいだけでしょ。まぁ、妖怪ってジャンル絞るくらいだし、面白いものは見れるんじゃない?」
教えてくれたクラスメイトの子は少し呆れた様子でそのツイートを私に見せてくれた。
……とても気になる。
 
私も高校生にもなって流石に妖怪や妖精の類いは真っ向からは信じなくなってしまったが、いたらいいなぁという気持ちも少し残っているのだ。
その後は何事もなく一日が終わった。
家に帰って自室のベッドで寝転がりながら、クラスの子に教えてもらったアカウントを自分のスマホで見てみる。そのイベント告知アカウントによると、どうやら昼は人間たちに混ざってマーケットやレストランなどで交流をし、夜は浅草の一角にある古き良き遊園地、浅草花やしきに集まり盛大な交流会をするのだという。
またマーケットでは妖怪グッズや妖怪に変装できるアイテムなどを浅草六区ブロードウェイの大通りで販売するらしい。さしずめ妖怪のイメージアップ運動と言ったところだろうか、リツイートで紹介されている作家さんのグッズはかわいいものも多い。お土産感覚で手に取れるだろう。
万人受けしそうな言葉や写真の羅列に心が弾んだ。しかし読み進めていくうちにとあるツイートが目に留まった。
「夜の花やしきで行われる妖夜祭は妖怪じゃないと絶対に入ってはなりません。」
………ううん、気になりすぎる。絶対に夜のイベントに乗り込もう。妖怪達に人間とバレないようにお昼に何か仮装グッズを買って乗り込もう。…あとそのためにこの後のお小遣いを節約しよう。
もうすっかり妖怪がいると信じきってしまった私は来たるハロウィンの日を待ちわびるのであったーー。
そして待ちに待ったハロウィンの日。13時。
浅草に向かう道中でも魔女や猫耳をつけた仮装をちらほら見かける。どこも街中はどこかソワソワした感じがした。
そんな空気を感じながら私は電車を乗り継ぎ、浅草に到着する。休日の浅草観光客の人混みにぎゅうぎゅう揉まれながら何とか迷わず六区ブロードウェイに辿り着く。
「わぁ……!」
目の前の光景に私は目を疑った。
ーー…六区の大通りでは、観光客や大道芸の人達に混じって妖狐、猫又、鬼、龍神、化け狸、付喪神…など様々な妖怪達がひしめいて、我が物顔で闊歩していた。
服装は和装だったり洋装だったりと様々だ。派手な装飾の者もいれば、限りなく人間に近い服装の者もいた。しかしどのような格好でも妖怪達はこの歴史ある浅草の街並みにとてもよく馴染んでいるように感じた。
その妖怪の密度の高い圧倒的な異空間に少し気圧される私。通りを進みたいのに、混じりたいのに、足が、動かない。
と、そこに。
「おっ、そこの子!妖店マーケットを見に来たのかな?」
通りから出てきた法被を着たお兄さんが声をかけてきた。ごく普通の人間の格好だ。
「は、はい!」
「やっぱりね。大丈夫、怖くないよ。妖怪達が危険なことをしないように僕らが見てるからね」
お兄さんの着ている法被には「お祓い屋 ツチミカド商會」と書かれている。
お兄さんによると今日の六区では、妖怪達が人間に危害を加えようとしたり暴れたり、決められた区間から出たら封印・浄化できるようにお祓い屋さんたちが配備されているそうだ。
「いわゆる妖怪専門の警備員だね。僕らはちゃんとした人間だよ!」
その徹底ぶりにイベントの本気度が感じられる。
…やっぱりこの通りを歩いている存在は気合の入った仮装なんかじゃなくて本物の…妖怪たちなんだ…。
「昼は人間もいるからこうやって見回りをしてるけど、夜は妖怪が集まる花やしき周りの見張りしかしないから…夜は絶対に花やしきには行ってはいけないよ」
急に明るかったお兄さんの声に真剣味がこもった。顔も本気のようだ。
「わかりました…」
私のこの言葉を聞くと一転元の声に戻り
「引き止めちゃってごめんね!じゃあ、マーケットを楽しんでいってね!」
そう言ってお兄さんは警備をしに通りへ戻っていったのであった。
祓い屋のお兄さんと別れた私は六区に足を踏み入れた。
妖店マーケットを見て回る。
様々なお店があり、どれも異形の者たちが楽しげな顔で客引きをしたり店番をしている。
観光客たちはすごい仮装だと思っているのだろう。驚きはしているが怖がりはせずにマーケットを見て回っていた。
マーケットの品々は妖怪の根付やアクセサリー・ぬいぐるみなど多種多様で目移りしてしまう。
「ううー、どれも可愛いなぁ…」
私はついつい緩みそうになる財布の紐を叱咤しながら良さそうな仮装道具を探していた。
「そこのお嬢さん、狐面はいかがかな?」
そんななか、ふと誰かに声をかけられる。
そちらへ目を向けると狐面を被った和服の男が怪しげに手招きをしていた。そのお店の前まで足を運ぶ。
「狐面…ですか?」
「そう!うちじゃ様々な狐のお面を取り扱ってるのさ。この妖怪だらけの今日には持ってこい。お一ついかが?」
狐面の男のその誘うような声につられて並べられたお面たちに目を移す。
工芸品のような狐面、眉間のしわまで丁寧に彫り込まれている力強い表情の狐面、絵のように色彩鮮やかで繊細な表情の狐面、大きな青い目と満面の笑みが特徴的な狐面、ベネチアンマスクのようなアンティークな模様が特徴的な狐面……本当に様々な種類の狐面が並べられている。
ふいに目の端に映ったの狐面の一つに吸い寄せられるような感覚がし、手に取る。
それは白くてシュッとした表情の狐面だった。夏祭りの屋台では売ってそうにないその可愛くも怪しげなその顔つきにどうしようもなく惹かれる自分がいた。…これだ。
「じゃあこれを一つください。そのまま付けていきます。」
私は手に取った狐面を指し、男に告げた。
「はい、毎度あり。じゃ、妖怪たちのハロウィンを楽しんでいって。夕方には帰るんだよ。」
狐面の男はひらひらと手を振って見送ってくれた。…これで夜に乗り込める。
早速買ったばかりの狐面をつける。紙と塗料の香り。やはり少し視界は悪くなったが被り心地はとても良い。
そのまま通りをふらつくと、そばを通る観光客が好奇の目で私を見てくるので自分も少しだけ妖怪になった気分になった。
辺りにも私と同じように狐面やツノカチューシャをした人たちが自撮りをしたり、妖怪たちと写真を撮っていた。
しばらく歩いたりお茶をしたりで時間を潰しているとだんだんと日が傾き、観光客向けのお店が閉まってゆき、通りを歩く人の数も減ってきた。夜が近づいてきたのだ。
お面やカチューシャだけの人もだんだんと減ってきて言いつけを守っているのだと感じた。私だけいけないことをしているみたいで今更ながら少しドキドキしてきた。
反対に妖怪たちはどんどん増えてきて、花やしきの開場を通りでソワソワしながら待っている。自分に霊感はないが、何だか妖気?が辺りに満ちているような感じもする。
いよいよ花やしきの、妖怪たちの夜の幕が開くのだ。
(中編に続く)